一周しながら気軽に楽しめる一杯。
札幌 市電でラーメン屋巡り TEXT/KAGEHIRO WATANABE, PHOTO/SHUN TAKEBE2015年12月20日、ついに札幌の市電の「西4丁目」と「すすきの」が連結。このループ化を記念して、市電沿線のラーメン店をご紹介します。とんこつスープをつかった札幌ラーメンの正統派あり、煮干し系あり、つけ麺ありと、バリエーション豊かにピックアップ。地元の方も、観光で札幌を訪れた方も、市電で一周しながら気軽に行ってみてはいかがでしょうか。
第一次ブームの味を引き継ぐ純正札幌ラーメン。
三番館
ご当地ラーメンのはしりとなった第一次札幌ラーメンブーム。三番館は当時の味を今に残す純正札幌ラーメンのお店です。往年の名店・龍園で修行したご主人が西線14条でこのお店を始めたのは昭和58年(1983年)のこと。今では西線でいちばん古いラーメン店になりました。昔から変わらぬ懐かしい味。タクシー運転手御用達、開店当時からの常連さんもいるというのも納得です。
一番人気は札幌ラーメンの定番、味噌味ですが、醤油味や塩味にも根強いファンがいます。肝はスープ。札幌ラーメンといえば、炒めた野菜にとんこつスープです。三番館のスープは、旨味が多く出る“げんこつ(豚の膝関節の骨)”だけでとったもの。そんなスープを、1日以上熟成させた“仕上げスープ”と、その日にダシをとった“粗スープ”の2種類用意してブレンド。しかも、長年つぎたしながら旨味を積み重ねてきた歴史的な味わいです。でき上がるのは、とんこつらしい旨味はあるけれど、臭みはない、上質なスープ。とんこつ嫌いな人でもきっと美味しく食べられるはず。「濃いと言われていたスープが、時代がかわって、あっさりと言われるようになった」とご主人。お店の歴史を感じます。
ラーメンと一緒に食べる餃子も絶品。ラーメンと同じスープで煮立てて、そのまま焼き上げる。このお店の餃子の羽根は、スープで出来ているのです。スープはカレーや中華丼などのほとんどのメニューに使っているので、ラーメンが気に入ったなら、ほかも試してみてはいかがでしょうか。そこには、長い歴史の中で円熟した技と熟成した美味しさが満ちているのです。
ワンコインなのに絶品。昼限定のラーメン店。
木曜日
西線9条旭山公園通駅から徒歩5分。住宅街の一角にひっそりと佇むラーメン店。店内にはゆるやかなレゲエが流れ、ほのかに煮干しの香りが漂う。木曜日はそんな気取らないラーメン店です。この風変わりな店名の由来は、「カレー魂 デストロイヤー」で働いていたとき、定休日の木曜日に店を借りてラーメンを出していたところから。ミッフィーの絵本でおなじみのブルーナレッド一色の壁も、デストロイヤーから受け継いだものです。
行きつけだった「麵屋 三四郎」が埼玉へ移転することになり、居抜きで引き取って独立したのが現店舗。今は定休日の日曜日以外は毎日営業しています。特に人気なのは、カタクチイワシと白口煮干しをつかった煮干し正油、500円。以前は、マイワシでつくる平子煮干しをつかっていましたが、今は瀬戸内海産の白口煮干しを採用。ロットごとに味がかわってしまう煮干しのスープなのに、いつも美味しいラーメンが食べられるのは、ご主人の日々の試行錯誤があってのことなのでしょう。
麵はこだわりの自家製麺。こね終わったときの温度や、3回の圧延の工程でそれぞれ太さをどうするかなど、微妙な調整の組み合わせが、麵のこしの強さや食感を左右します。「おもしろいですよ、麺」とご主人。麵についても、さらに美味しくするための研究に余念がありません。チャーシューは、オーブンに入れて低温で2時間強焼いてから、たれにつけたもの。スープとよく合う、絶妙な仕上がりになっています。
営業時間は、「スープがなくなることもあるので…」とのことで午後4時半まで。気軽に、でも美味しく食べられる500円のラーメン、木曜日以外もお昼にぜひどうぞ。
リニューアルの人気店。迷いなくつけ麺。
札幌 Fuji屋
ご存知札幌の人気ラーメン店「豚ソバ Fuji屋」がリニューアルしたのは今年10月末のこと。新たにすすきのの新ラーメン横丁で2号店「ふじ屋 NOODLE」がオープンすることになっており、元の店舗は「札幌 Fuji屋」として、つけ麺専門の店になりました。というわけで今回は、美味しさはそのままだけれど、装いが少しかわったFuji屋さんのつけ麺のご紹介です。
いまだに自分の店舗以外でラーメン年間250食という麵好きのオーナーがつくりあげたFuji屋。最初のおすすめは、醤油つけ麵とのこと。それから、辛いものがお好きなら辛化つけ麵をお試しあれ。いちばん辛い「ヤバイ」は文字通りの激辛ですが、辛いながらもしっかりと味わえるよう調整されています。濃いものが好きなら、煮干しの香りを濃厚に放つクセのあるメニュー、限定25食の濃厚ニボ味噌つけ麵をどうぞ。
スープは、大型の圧力寸胴でしっかりと旨味を引き出した煮干しのダシと、げんこつのダシを1対1で。国産豚の一枚脂をつかっていて、スープにはきめ細やかな油が漂います。麺は、主にパンにつかわれている「ゆめちから」と「春よ恋」という2種類の道産小麦をブレンド。歯ごたえの楽しめる平打ちの太麵に仕上げています。
つけ麺といえば、割りスープで味の変化が楽しめるのも嬉しいところ。Fuji屋では、刻んだゆずが浮かぶ割りスープでさっぱりと食べ終わることができます。ほかにも、ゆず酢や、5種類の魚粉とスパイスをブレンドしたサカナコショーもあるので、ひと口ひと口、違ったつけ麺を味わうことができます。このお店で食べてみればきっと、つけ麺にうるさい方もそうじゃない方もきっと気に入る味があるでしょう。
王道の系譜でありながら、進化を続ける札幌の味。
らーめん庵
千歳の人気ラーメン店「IORI」。札幌西線近くの住宅街の一角にある「庵」はその姉妹店です。最初にできたのが札幌の庵。その店を始めたオーナーが故郷である千歳へ戻って始めたのがIORIになります。調理や野菜の仕入れはそれぞれのお店で行っていますが、メニューやレシピは同一とのこと。千歳のIORIが気になっている方も、札幌の庵でいちど味わってみてはいかがでしょうか。
いちばんの人気メニューは、お客さんの約7割が頼むという味噌ラーメンです。とんこつベースで、炒め野菜にひき肉、たっぷりのラード。オーナーが、すみれから独立したというのも納得の、王道の札幌ラーメンです。
スープは、とんこつ、鶏がら、煮干し、鰹節、玉葱、白菜でじっくりと。山椒が香る、豊かな味わいに仕上っています。片面をあぶったチャーシューも香ばしさにひと役買っていて、濃厚なスープの旨味を引き立てる、計算し尽くされた美味しさです。
王道の札幌ラーメンではありますが、改良しながら、さらなる美味しさを目指しているIORIと庵。2年ほど前には、自家製麺に切り替えました。同じ頃に、ネギも京都直送の九条葱に変更。ネギ増しを頼むお客さんも少なくないそうです。昔風ラーメンなど、ラーメン専門店であることにこだわりなりながらも、新たなメニューを追加しています。昔風ラーメンは、炒め野菜を入れず、ストレートな麵をつかって、あっさりと仕上げた一品。王道の札幌ラーメンとともに味わってみてはいかがでしょうか。