北海道を静かに伝える。

赤れんが庁舎

TEXT/YUSUKE TOKOSHIMA, PHOTO/NAOKO TAKAHASHI

”北海道”と聞いて、この建物を思い浮かべる人も少なくないのではないでしょうか。札幌の北3条通を西へ進んだ、つきあたり。イチョウ並木からゆるやかにつながるように、赤れんが庁舎があります。広々とした前庭には、カメラを携えた人々の姿が年中絶えません。新緑から紅葉の季節にかけては、カモがくつろぐ池や建物の前で、観光客に混じって、さまざまな人がお弁当を広げたり、スケッチブックに向かったりしています。雪の季節には、澄んだ空と白い前庭にその輪郭がくっきりと浮かび上がり、青みがかった深緑色の屋根に雪が積もれば、夏とはまた違う趣きです。旅の思い出を刻む、息抜きにふらりと足を運ぶ……そんな思い思いの時間が流れます。

赤れんが庁舎の完成は明治21年。当時、札幌市の人口はまだ14,000人ほどでした。竣工当時は国内でも有数の大規模建築物だったと言います。もちろん周りに高層ビルなどなく、札幌の中心地にそびえ立つ巨大なれんがの建物は、遠くまで圧倒的な存在感を放ち、北海道のシンボルとして人々の目に焼き付いたことでしょう。その後は八角塔の撤去や火災などを経て、昭和43年、開拓100年を記念して創建当時の姿に復元。翌年には国の重要文化財に指定されました。

現在も北海道庁の庁舎として使われていますが、北海道開拓にまつわるギャラリーや資料館、展示室があり、一般にも公開されています。歴代の長官や知事が使った執務室の調度品や、装飾が施された柱や階段、出入口、窓からは、開拓期の希望や気概がまだ息づいているように感じられます。外観は中央の八角塔が目を引きますが、その少し下には赤い星が一つ。これは開拓使のシンボル”五稜星”で、時計台や豊平館、サッポロビール博物館などにも同じくあしらわれています。また、東正面の重厚なイメージが強いものの、西に回って裏側から見ると、2基の煙突が高く伸びて意外とほっそりとした雰囲気。”後ろ姿美人”とも言われているそうです。

時代に合わせて変化していく周囲のビル群に新しさや高さでは敵いませんが、それもどこ吹く風。どっしりとこの地に根を下ろし、目覚ましく発展した札幌の街や、農業・観光王国へと成長する北海道を静かに思い続けているようです。