本気のそばを、気どらずに。
そば処 すずしろ TEXT/REINA ABE, PHOTO/NAOKO TAKAHASHI自家製麺、つゆ、食材、技術への並々ならぬ思い。それは、「うちの味は、まず子どもが気に入ってくれる」という言葉に表れているのかもしれません。素直においしいと感じる味が、「そば処 すずしろ」が愛され続ける理由なのでしょう。
そば職人歴20数年という店主の今野さんは、札幌駅前にあるそば屋で10年ほど修行したのち、すずしろをオープン。修行時代に学んだことを基本に、独自の味を磨いてきたといいます。JR琴似駅前に12年近く店を構えていましたが、2014年、山の手通り沿いに移転。店内は、アジアン風にまとめた、落ち着いた雰囲気です。聞けば、一度だけ訪れたバリが気に入り、テーブルや椅子、照明なども現地から運んだという徹底ぶり。冷蔵庫や襖に描いたバリの地図やイラストに、絵が好きという今野さんの人柄が感じられます。
すずしろの特徴は、透き通るように白い更科そば。そばの実の芯の部分だけを挽く更科は、とれる量が少なく、貴重なもの。アメリカ産、中国産、日本産をブレンドしたそば粉を札幌市内の製粉所から仕入れて、朝と中休みに店内で打っています。ただ国産そば粉に固執するのではなく、品質のよいものを自ら見きわめ、鍛錬した技術で仕上げる。「調理師技能コンクール全道大会 めん料理の部」での金賞受賞や、難関といわれる「麺料理専門調理師」の認定を受けるなど、長年ひたむきにそばと向き合ってきた姿勢がうかがわれます。つゆは、カツオとアジを絶妙なバランスで。そのコクと香りは、いつまでも味わっていたくなるほどです。
名物「かもせいろ」は、鴨のだしをたっぷりと含んだ温かい汁でいただく一品。ひと口そばをすするごとに押し寄せる、香ばしい鴨の風味がたまりません。ロースを使うお店が多いそうですが、「だしの深みが違う」というモモ肉を使用。骨付きのまま仕入れて、自らさばいています。また、海老、春菊、お餅の天ぷらが入った「天ぷらそば」もおすすめ。ピンとまっすぐに揚がった海老が丼から飛び出し、見た目もインパクト十分。天ぷらからしみ出すコクと、ぷりぷりの海老が、一杯の奥行きを深めています。
そば切りのほかに、かも鍋やそば寿司、そばざんぎなど、軽く飲みながら楽しめる逸品も。靴を脱いで上がる2階の部屋は、予約をすれば宴会にも利用できて、気の知れた仲間との一席にもぴったり。バリの家具が置かれた広々とした空間で、時間を忘れてくつろいでしまいそうです。
こだわりは、と問えば、「こだわりっていうと押し付けみたいで……」と話しはじめた今野さん。「当たり前のことを、手を抜かずに当たり前にやる」という飾らないひと言が返ってきました。すべては、お客さんが心からおいしいと感じる一杯のため。そんな思いと技が生み出すそばを、じっくりと味わえる一軒です。