ある日の、よりどころ。
喫茶 館 TEXT/REINA ABE, PHOTO/NAOKO TAKAHASHI思わず目が留まる、懐かしのゲーム台。昭和の終わり頃、喫茶店やスナックでよく見かけたものです。地下鉄麻生駅の目の前にある「喫茶 館」。昭和53年、千葉から北海道へ移り住んだばかりだったママの真田さんが、人との交流をもちたい、とこの場所にオープンしました。外観はまっ赤なひさしが印象的です。店内のテーブル型ゲーム機は、10年ほど前にお客さんから要望があって設置したもので、もちろん今でも現役。開店当時から人通りの多い場所だったとはいえ、次第にビルやマンションが増えていき、周辺はすっかり様変わりしました。それでもお店は変わらず、近所のマンションの住人たちや昔からの常連さんが日課のように訪れます。
遅めの昼食にありつく人。奥の席に陣取り、麻雀ゲームに講じる人。ブレンドコーヒーを傍らにスポーツ新聞を広げる人。1時間かそこらの滞在時間を、呼吸を整えるように、思い思いに過ごしています。
メニューは、ブレンドコーヒーやカフェ・オ・レ、パフェなど飲みものやデザートはもちろん、ピザトースト、ナポリタン、エビピラフ、カレーライスなどの洋食から、そば定食、かつ丼、鍋焼きうどんまで幅広く。「長いことやっていると、いろいろ作らされるの」とうれしそうに話す真田さん。メニューにないものでも、材料さえあれば出すのだそうです。一番人気だという日替定食は、メインのおかずを天ぷら・ミックスフライ・カツ・焼肉から選ぶことができる、ボリュームたっぷりのメニュー。その日替定食をほおばっていたお客さんが、「ママの愛情こもったごはんがウリ」と相づちを打ちます。
みんなが集まれる場所にしたいと付けた「館」の名前。お店を開いて37年、これまで苦労を感じたことはなく、昔の人が立ち寄ってくれるのが楽しみだそうです。すぐ近くに北陵高校行きのバス停があり、学校帰りに遊びにきていたかつての高校生が立派になって、ふらりと立ち寄ってくれることも。年季の入った赤いひさしや玄関は、そんな昔からのお客さんがすぐにここと分かるように、そのままにしています。ゆったりと食事を終えた常連さんが、「ゆっくりしていってください」とこちらに笑いかけて店をあとにしていきました。