軟石造りに守られた、なつかしの洋食。

レストラン のや

TEXT/REINA ABE, PHOTO/NAOKO TAKAHASHI

住宅街に現れる、札幌軟石造りの落ち着いた構え。おいしい洋食を求めて、お昼時ともなれば広い駐車場がびっしりと埋まります。建物は、もとは質屋さんが店舗兼住宅として使っていたもの。その屋号をあらわす「ヨ」の文字が、三角屋根の下に残っています。レストラン開店に向けて改装していた当初、歴史の重みを感じずにはいられなかったと店長の川端さんは話します。そんなこともあって、魔除けの効果をもつヨモギを意味するアイヌ語の「のや」を店名に。庭には、前から植えられていた“松竹(笹)梅”の木々と、開店時にこしらえた池。ここで羽を休める野鳥を目当てに来店する常連さんもいるそうです。

厨房で腕をふるう川端さんは、大学卒業後にホテルのレストランへ就職。さらにフレンチやイタリアンなどを経験し、1985年に「プー横丁」を、1998年に「レストラン のや」をオープンしました。姉妹店「プー横丁」も、軟石造りの元タマネギ倉庫。その改装工事をはじめた頃、写真スタジオや花屋を営む人々が一足遅れで訪れては、借り手が決まっていたことを残念がったそうです。以来、「もし、彼らがここを借りていたら」「この軟石の建物を独占したくない」という思いを抱きつづけてきました。そんな経緯から、「のや」では花、絵、写真などの展覧会、落語会などを開催しており、特に音楽ライブが楽しめることでも知られるように。軟石の建物は音の反響がちょうどいいと定評があり、全国からもミュージシャンが訪れています。

小学校の出席簿のような趣きの「御料理帳」を開けば、豊富なメニューに目移りしてしまいます。パスタ、ピザ、ドリアのほか、おじやなどの一風変わったメニューも。料理に使うソースは、すべてお店で手づくりしているそうです。シーフードドリアのホワイトソースは生クリームを使わずあっさりとした味わいに。特製のトマトライスと相まって、ほたてやカレイなどの魚介の味を引き立てています。聞けば、古い文献を参考にして、牛乳にチキンの旨味を加えてコクを出したり、ミックスチーズにオランダ産エダムチーズを加えて深みをもたせたりと、おいしさのために手間を惜しまない姿勢がうかがえました。その細やかな工夫は、料理だけでなく、内装や家具など、お店全体に行き渡っています。それこそが、15年以上も人々を惹きつける「のや」の魅力なのかもしれません。