札幌にいながら、気分だけでも海外へ。

市内海外旅行

TEXT/YUSUKE TOKOSHIMA, PHOTO/NAOKO TAKAHASHI

見るからに日本のそれではない外観、入りたいけど入れないお店。そこで待っているのは、本来その国に行かなければ体験できないことばかりです。慌ただしい日常から、ほんの一瞬だけ解き放たれ、ここが日本であることを忘れさせてくれます。もちろん、パスポートも入国審査も必要ありません。扉を開ければそこには異国が。
さあ、札幌で楽しめる手軽な市内海外旅行へでかけてみませんか。

「屋台の国」シンガポールへ。(1)
新加坡蝦麺(シンガポールえび麺)

個性的で一見変わった風貌のお店が多い狸小路商店街でも、ひときわ目をひく「新加坡蝦麺」という巨大な看板。漢字と英語のみの表記が、いっそう異国の雰囲気を醸し出しています。このお店は、昨年の暮れにオープンしたばかりのシンガポールの“えび麺“専門店。日本ではまだまだ馴染みの薄いえび麺ですが、シンガポールでは“プロウンヌードル”と呼ばれ、老若男女問わず愛される国民的ローカルフードなのです。

同店のオーナーと店長の海江田さんが、数あるシンガポールグルメの中から、日本人にの好みに最も合いそうなえび麺を選び専門店を開業しました。えび麺のお店は、シンガポールの街のあちらこちらに見られ、日本で言うところのラーメン屋のようにお店によって味や製法が異なり、それぞれがファンを持っているそうです。同店は、地元シンガポールでも特に人気の銘店をモデルにし、その味を忠実に再現。「何杯も食べて、コレだと思いました。」と海江田さんは自信たっぷりに話します。

タイル張りのカウンターやむき出しのステンレス、目にも眩しい橙色の壁。入り口のガラス越しに覗く狸小路商店街の情緒も相まって、まるで東南アジアの路地裏にいるような錯覚に捕われます。オーダーの仕方もシンガポールスタイル。はじめに具材や、スープのあり・なし、そして麺のタイプを選択。最もオーソドックスな、プロウン(エビ)+汁あり+ミックスは850円。大量のエビでとったうまみたっぷりのスープに、大振りのボイルエビがトッピングされエビ好きにはたまらない組み合わせです。薄茶色のスープは意外にもあっさりで、エビのコクがじんわりと後をひきます。合わせて食していただきたいのが鶏のダシとショウガで仕上げたミニ鶏飯300円。えび麺との相性が抜群です。


「屋台の国」シンガポールへ。(2)
コピティアム

「新加坡蝦麺」と軒を並べる「コピティアム」は、札幌におけるシンガポールレストランの元祖であり、唯一ともいえる存在です。その一種異様な出で立ちは、すっかり狸小路商店街のシンボルとなりました。“非日常感”を信念としているだけあって、店内はとにかく奇抜で独特。真っ赤に照らされた現地のポスターや無造作に陳列された雑貨たち。ガチャガチャと賑やかな店内に、独特なスパイスの香りが漂います。カウンターの奥で下ごしらえする日本人スタッフの会話が、異国語に聴こえてくるのは私だけでしょうか。

料理ももちろん本格的。使用されるスパイスはシンガポールまで買い付けに行くそうで、料理の1つひとつに細かなこだわりが感じられます。一番人気を誇る星州肉骨茶(バクテー)は980円。骨付きの豚肉を八角やナツメ、クコ、シナモンなど13種類の漢方が入ったスープで煮込んだ薬膳料理です。甘さの後に、スパイスの香りが広がり、味は薄めであっさり。豚肉もほろほろととろけるやわらかさで、体中に薬膳がじんわりとしみ渡ります。チキンやマトンを串に刺したサテ(4本)550円は、まさに日本の焼鳥のような料理。現地ではおつまみ感覚で食べられているそうです。タイガービールをはじめとするシンガポールのビールも豊富に揃います。

シンガポールは中国をベースに、マレーシア、イギリスとさまざまな文化が複雑に絡み合うエキゾチックな国。コピティアムは、その雰囲気をまるごと味わうことができるお店なのです。大泉洋主演映画「探偵はBARにいる2 ~ススキノ大交差点」のロケ地にも選ばれ、劇中に登場しています。コピティアムで食事とシンガポールビールを楽しんだ後は、お隣、新加坡蝦麺のえび麺でしめる。狸小路商店街でシンガポールグルメのフルコースはいかがでしょう。


ウォッカを嗜みにロシアへ。
ロシア風居酒屋 コーシカ

ロシアの弦楽器バラライカを奏でる女性と、コサックダンスを踊る青年の看板。札幌在住の人ならば、一度は目にしたことがあるのではないのでしょうか。ロシア風居酒屋「コーシカ」は創業37年になる狸小路商店街でも指折りの老舗飲食店です。第二次世界大戦後にシベリアの捕虜として抑留されたオーナーの父が、日本に引き上げた後に奥様と共に開業。店名の「コーシカ」は、ロシア語で子猫という意味で、先代の父が捕虜時代に名字の「ミヤオ」が「ミャーオ(猫の鳴き声)」に聞こえると、シベリア将校たちにつけられたニックネームに由来しているそうです。戦争の記憶が、こんな身近なところにもありました。

店内には旧ソ連時代に出版された書籍やポスター、マトリョーシカなどの民芸品がところ狭しと並べられ、毎夜、気心知れた常連が集います。「ソチオリンピックで盛り上がっているけど、ウチは全く関係ないわ。」と宮尾さん。一見、もの静かでシャイな印象ですが、実はおしゃべり好き。歴史、グルメ、文化までロシアにまつわる興味深い話を次から次と聞かせてくれます。

日替わりピロシキは300円。生地から手づくりで、具材も日によって少しずつアレンジを変えています。ロシアを代表する家庭料理ボルシチは600円、鶏ガラでとったスープは野菜などのうまみがたっぷりです。ウォッカとの相性を考えて、料理の味付けはどれも濃いめ。主軸商品のウォッカは実に10種類。一般的な酒屋では取り扱っていないものから、時代背景を受けて、一時輸出がストップされるなどの紆余曲折を経て再上陸を果たした銘柄など、品揃えは市内随一です。ウォッカの一番おいしい飲み方はなっといってもストレート。-20℃でキンキンに冷やされた状態で提供しています。「ロシア人は一気するけど、日本人はちびちびがいいよ。」と宮尾さんは静かに笑います。レモンウォッカ500円は、ほのかにレモンの香りがする口当たりの良さが印象的で、アルコール度数40°の事実をついつい忘れてしまいそうです。


札幌から約9,000km。ベルギーへ。
フランダースの犬

ヨーロッパの国ベルギーは、グルメ、自然、古城などさまざまな魅力があふれ、首都ブリュッセルはEUの本部が置かれる国際的な都市です。そんなベルギーの料理や文化を楽しめるレストラン・バーが、南1条の電車通り沿いにあります。店名は、共同オーナーのペックスタット イブさんとデコーニンクウォールターさんが生まれ育ったベルギー・アントワープを舞台にした名作文学にちなんだもの。旅行で北海道を訪れた2人が札幌の景観や気候に惚れ込み、故郷・ベルギーの郷土料理を楽しめるお店を開きました。

店内に入れば、飴色になった木製のテーブルや椅子が並びます。おとぎ話に登場するような重厚で趣のあるインテリアに、200年以上も前に作られたアンティーク家具。これらはベルギーの貴族などに愛用されたもので、ベルギーから船便で運び込んだそうです。料理が盛りつけられたお皿もベルギー製のアンティークもの。まるで、ベルギーの家庭へ食事に招かれたようです。人気のメニューはチコリグラタン900円。ベルギーを代表する家庭料理の一つで、独特の苦みをもつチコリと、まろやかなホワイトソース、チーズの味わいがクセになります。ブラウンビールで煮込んだベルギーシチュー チコリストゥンプ添えは1,000円、添えられたマッシュポテトと共にいただきます。ベルギー製のオーブンで焼き上げるワッフルは、甘さ控えめでほのかにバニラが香ります。生クリームとの相性が良いリンゴの赤ワインづけをトッピングして650円です。

札幌ではなかなか口にすることのできないベルギービールの品揃えも、生ビール、瓶ビールを合わせて30種類以上。フルーツフレーバーがベルギービールの特徴で、ビール特有の苦みが少ないため女性のファンも多いそうです。アルコール度数は日本のビールと比べて高め。いつもよりゆっくりと味わうのがおすすめです。次の休日は、市電に乗ってベルギーを訪れてみませんか?