カレー“も”絶品、そんな贅沢。

カレー専門店じゃないお店のカレー

TEXT/REINA ABE, KAGEHIRO WATANABE, PHOTO/NAOKO TAKAHASHI

札幌といえばスープカレー、ですが、今回はルーカレー(北海道の方言なのだとか)。しかもカレー専門店ではないお店ばかり。でも、だからこそ、カレーを始めることになったなりゆきについても、カレー自体へのこだわりについても、面白いお話をうかがうことができました。もちろん味だって専門店に負けてはいません。カレーが好きな方も、喫茶店やバーが好きな方もどちらも楽しめる、お得感満載な札幌のお店3軒のご紹介です。

四半世紀分の旨みが凝縮したカレー。
カフェ エッシャー

お客さんが電話で「いつものカレー屋で待ってる」と言っているのを聞いて衝撃を受けたという店主の木村さん。「カフェ」の名のとおり、フレンチローストのオリジナルブレンドを飲ませてくれるれっきとした喫茶店なのですが、カレーも美味しいためそのようなことに。ちなみに店名は画家の名前から。エッシャーのだまし絵のように、このお店があるビルは複雑な構造になっているのだとか。かつてここにあった証券会社のための泥棒対策だったのです。エッシャーさんの店舗も実はかつての金庫の中。分厚い金属製の扉がその証拠です。

コーヒー専門店での修行時代を経て独立した木村さん。カレーについては自己流で、「プロの手の抜き方が分からない」とおっしゃいます。旨みや甘みのカギだというタマネギは、25kgを5時間じっくりと炒める。カツもフライも注文されてから揚げる。夏にはちょっと辛めに、冬にはこってりと。暑い日、湿度が高い日、少しずつ調整。そのような手を抜かないところがきっと特別な美味しさへとつながっているのでしょう。それに加えて特別なルーもあります。このお店のルーはずっと継ぎ足し継ぎ足し続けてきたものなのです。開店は平成元年(1989年)。昨日のカレーは美味しいなんて言いますが、エッシャーさんの場合は四半世紀分の旨みの集積です。

木村さんが人気メニューとして挙げてくれたのは「なすとひき肉のカリー」。その他にも、暑い日に注文が多いという、バターソテーしたホタテと揚げたブロッコリーのカレーや、手作りのコロッケと3種類の茸を使ったカレーなどなど、どのメニューも気になるものばかり。何度も通いたくなってしまいます。もちろんカレーだけのためではありません。ここでは建物の歴史にひたり、カレーを味わい、コーヒーを堪能することができる。きっとそんな重層的な魅力が多くのお客さんたちを惹きつけてやまないのでしょう。

カフェ エッシャー

札幌市中央区北2条西3丁目1-26 札幌第一ビル B1F
TEL.011-231-4430
営業時間/月~金 11:30~16:00
         (L.O. 15:30)
     土   12:00~15:00
         (L.O. 14:15)
定休日/日曜・祝日


石蔵と無水カレーの、深みある味。
Cafe&Bar ROGA

サツエキの裏、古い石蔵。築100年の趣きはそのままに、カフェバーとしてオープンしたのは2010年。待ち合わせに、空腹を満たしに、アイデアを探しに、多くの人が訪れるようになりました。介護福祉の専門家としてパラグアイに滞在していたこともある店主の太田さん。「ROGA」とは、現地のグアラニー語で「家」を意味するそうです。聞けば、もともとここは、ご自身の実家である「東洋カメラハウス」の倉庫。2013年にお店をたたむまで、50年以上にわたって親しまれてきた町の写真屋さんでした。その石蔵の中で眠っていた古いレジや鉄瓶、どうしても置きたくて新調したという薪ストーブが、落ち着いた空間で存在感を放っています。

ROGA名物のカレーライスは、素材がもつ水分だけでつくる無水カレー。たっぷりの玉ねぎを炒め、2日かけて煮込んでいます。添加物を一切使わないさらりとしたルーは、トマトのほのかな酸味のあとに、ぴりっと心地よい辛さ。と同時に、口の中で鶏肉がほろほろとくずれていきます。爽やかながら奥深い味わいに、するするとスプーンが進みます。ランチセットにつくマカロニサラダは、不思議なほどカレーライスと相性びったり。また、煮込んで水分がとび、とろりと粘度が増したルーは、カレードリアに。最初はまかないで出していましたが、パーティーメニューに加えたところお客さんたちから大好評。今では夜の人気メニューのひとつになりました。

太田さんが目指すのは「生きた掲示板をつくる」こと。インターネットに膨大な情報があふれる今、人と人が直接交流できる空間にしたいという思いが、店づくりのきっかけでした。だからこそ、その取り組みはさまざま。写真展や音楽ライブ、トークイベント、オールナイトROGAなどが開催され、アイデアを実現する場としても魅力的です。もちろん、駅近くのカフェバーとして、ごはんものからおつまみ、デザート、ドリンクまで豊富なメニューが揃っているのも嬉しいところ。家のようにくつろげる空間、ひと味もふた味も違うカレーライス。古くて懐かしい石蔵に、新しい感性と刺激が宿っていました。


〆に本格カレーやラーメンが食べられるバー。
Wine and Bar 夜光虫

〆の1杯を食べにもう1軒、なんて行かなくていい。それが「夜光虫」です。スナックだと勘違いされることもあるという店名ですが、ワインバーです。バーといえば横文字。店主の中本さんはそれが嫌で、あえて日本語にしたとのこと。カレーがメニューに入っているのも、やはり、あたりまえのお店にはしたくないというこだわりのあらわれなのかもしれません。内装もシックなバーらしいものではありますが、ひっそりと置いてある古い本や時計や電話に、「誰かの家の中のようにしたかった」という中本さんのこだわりが反映されています。テーブルやイスの間が広くとってあるのも、お客さんが家にいるときのようなゆったりとした気持ちになれるように、という気配りからです。

オープンは2000年。当時からカレーはメニューにあったそうです。目指したのはホテルのレストラン風。注文すると、金属製の器で湯気を上げるカレーが運ばれてきて、おいしそうな匂いが店内に漂います。ひとりのお客さんが注文すると、ほかのお客さんも続いて食べ始めるというのも納得。もちろん、良いのは匂いだけではありません。味の決め手は、刻んだセロリやニンジンやタマネギを炒めたソフリット。野菜がたくさん入っているおかげで、辛めなのに刺激的ではなく、やさしい味わいになっています。このカレーには通常、ライスがついてきますが、パンを頼めるので、お酒との相性などを考えて選びましょう。

このお店にはなんとラーメンもあります。しかも製麺所に頼んでいるという独自の麺。お客さんに「ニンニクラーメン」と呼ばれたりしているという濃い目の味で、お酒の後にはぴったりです。となると、その前に何を飲むべきか。もちろん、「Wine and Bar」なのでワインがおすすめです。酒屋さんを通さずに仕入れているので、値段よりもいいお酒を飲むことができます。カレーに合うお酒を中本さんにお訊ねしたところ、「水が一番だけど・・・・・・」と前置きした上で、「しいて言うならスコッチ」とのこと。特にボウモアなどのアイラ島のシングルモルト。その独特な香りがカレーに合うということでした。〆のカレーやラーメンを楽しみにしながら、ゆっくりとお酒を飲む、そんなちょっと変わった贅沢をしに、夜光虫へ行ってみてはどうでしょうか。